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いつも搭乗者がわずか20名程度のキャセイ深夜便CX2053は、パックツアーには決して向かないが香港フリークには重宝する便でかなり格安、旅行社に勤務していた友人曰く、乗客は付録で貨物だけで充分採算が取れているそうである。

22時30分に関空を飛び立ち香港チェプラクコク空港に着いたのが深夜1時15分(日本時間2時15分)、ビルをかすめて降りるカイタック空港と違い、島を削り海を埋め立てて造ったこの空港は着陸の感動が薄い。滑走路を滑り降りたCX2053便は到着ゲートのビルとはかけ離れた貨物専用の場所へと走っていく。乗客はここから専用バスで入国審査場へと向かう。日中なら空港からホテルまで電車かバスなのだが、さすがに深夜ではタクシー利用となる。

機内での乾杯でほろ酔い気分の二人は、タクシー(的士)乗り場へと向かう。香港のタクシーは現金払いのみで三色の車があり、それぞれの色に応じて営業基盤が違う。しかも司機(シーゲイ:運ちゃん)はほとんど英語を話せないので厄介だ。

「ウェア? チィムシャツイ? トゥエンティ・シィックスティ OK?」

どうやらタクシーの客引きらしい。

「トゥハンドレッド・シィックスティ?」

私は聞き返した。彼らの英語は十の位までしか喋れないことを以前にも経験していたからだ。実際ホテルまで260ドルなら悪くないのでついて行くことにした。彼らにしてみれば最終便の数少ない乗客を順番待ちするより、確実に日本人を狙ったほうが効率がいいのかもしれない。

白タクなら断ろうと思ったが、我々の泊まるホテルへ行ける赤色タクシーだった。司機にホテルの名前を告げる。我々のホテルは小さくて知らないだろうから、あえて隣の有名なホテル名を出すとすぐに了解した。

さて走り出してから言い出しても遅いのだが、タイヤの溝をチェックし忘れたことをカリメロさんに話す。空港からホテルまで高速道路を130キロ以上のスピードでぶっ飛ばす。ちゃんとした車検があるのかどうか疑わしいが日本製の車は本当にすばらしい。車中での会話を思い出した。

「こんな古い車で高速走ってんのに、片手運転はあきませんよね?」

「ちょっと間違うたら海へ転落やな」

「カリメロさん、パスポート肌身離さず持ってなあきまへんで。死体で海に浮かんだとき身元不明になりまっせ!」

ホテルの前に停車した司機は約束の金を受け取りながら、たどたどしい日本語で、「帰国の前日までに予約してくれたら空港まで送りますよ。」と名刺を差し出した。

こうして私の常宿、帝國酒店(インペリアルホテル)に深夜2時過ぎにようやく到着した。

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