ー掟ー | ||||
「かめむしくん、わるいなぁ〜、つきあってもらって」 “師匠、なにゆうたはりますねん、わいも好きで付いて来てまんねん。” 御堂筋 大阪支店 コスモ6240の預り証を受付嬢に渡す。 「ねんちゃん、これ取りに来たんやけど・・・」 ― 少々お待ちください ― 白衣の責任者○△氏が奥から現れる。 ― これはこれはホンコン様、お待たせして申し訳ございません。― 「なおってまっか?」 ― はい、精度は日差プラス2秒程度にしておきました。ホンコン様もお人が悪いっ。言ってくだされば・・・これからは私をご指名ください。 ― 「おおきに」 ふたりは商店街へ “師匠、よかったでんなぁ、無料でなおって。しかしあの責任者、前と態度がエライ違いまんなぁ” 「たぶん修理する前に香港支社に問い合わせてわしのこと知ったんやろ」 “なんかわかりまへんけど、VIP扱いで気持ちよろしいな。今日はコスモの出所祝いでパーッといきまひょか?” 「ややこしい言い方やな、人が聞いたら誤解するやろ。よっしゃ!メシ食うたあとエエとこ、連れて行ったろ!」 ふたりでラーメンを食べたあと、商店街から少しはなれた閑静なところに、 “このビルになにがありまんねん” 「表やのうて裏から入るんや」 ふたりはビルの裏口から地下へとつづく階段を降りる “OYSTER BER DOLEX?・・・なんでっか?ここは?” 「会員制の秘密クラブ・ドレックス?や、えーっと暗証番号は143・・・」 入り口のテンキーボックスに暗証番号を入力すると、鍵が解除された 「シリアルナンバーが暗証番号になってるんや、かめむしくん、今日はDJしてるな?」 “もちろん、一張羅ですよってに” 黒服に蝶ネクタイの男性が現れ、ホンコンに丁重にあいさつをする 「今日はひとり連れてきたでー、かめむしくんや、ようろしゅうたのんまっせ。もちろんお宅んとこの顧客でっせ」 ― かめむしさま、いらっしゃいませ、支配人のハンスでございます。どうぞ、お見知りおきを・・ ― “師匠、ここはパロディー・バーでっか?” 「ちゃうちゃう、さっきの支配人は次期大阪支店長やで。ここで顧客の要望やいろんな情報を集めて経営にいかしてるんや。このビルの上は男子社員寮で最上階に支店長の公邸があるんや」 ふたりはボックス席の一角に腰をおろす。 ― いらっしゃいませ、ホンコン様、ご注文は? ― 「せやなぁ〜、かめむしくんはビッグバブルで、わしは尿酸値高いよってに赤シードもらおか・・」 ― かしこまりました ― しばらくするとバーテンダーがテーブルに生牡蠣、赤ワインと生ビールを置いて、ごゆっくりと一礼して去ってゆく。 “調度品はアンティークだらけで、すごい高そうなモンみたいでんなぁ。それにヨダレがでそうな関連グッズがいっぱいあって・・・この灰皿だけでも相当の値打ちが・・・” 「わしはなぁ、香港の親父に紹介状書いてもろて会員になったんや。ここを知ってるもんはそんなにおらんで。営業してんのも生牡蠣が食える季節だけで、しかも夜の10時10分までやからな」 “師匠、さっき隣のお客が(GMTで疲れてるし、それにデイトナやからブラックダイアルにしとくわー)って、どういう意味でんのん?” 「海外から帰ったばっかりで時差ぼけで疲れてるし、車やからコーラにしとくって意味や。 “師匠、カウンターの横の天井からぶら下がってるもん、あれなんでんのん?” 「あれは見てのとおり、つり革や、あそこで初対面同士、自慢の愛機を見せ合いながら自己紹介するんや。どや、かめむしくんも行ってくるか?すぐに誰か来てくれるでー」 “はずかしいですよってに、やめときます” あちらこちらで時計談義・・・心地よい時間はあっという間に過ぎ去り、閉店時間が近づく。 「そろそろ帰ろうか、かめむしくん?いっぺんに出ると目立つよってに」 “師匠、支払いは・・・” 「ここは全部タダや。オーバーホール代に含まれてるさかい」 “えっ!タダ!でも師匠、さっきはクレームで直しはったよってに・・・” 「ちゃうちゃう、みんなが払ってるオーバーホール代に上乗せされてるんや。わかってるやろうけど、他言厳禁、もし洩らしたら、そのDJどこへ行ってもオーバーホールは受けられへんようになるで!」 “・・・・・わっ、わかりました。師匠・・・・” |
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